「……ん?あれは?」

  太公望は一人の女性を見て立ち止まった。

「ああ。彼女はと言って、諸葛亮の補佐をしている娘だ。
  楽器が上手で、よくああして皆に聞かせている」
「ほぉ………」

  太公望は関心したようにを見た。
  綺麗なその音色。
  心ひかれるものがある。
  そして顔を上げた彼女を見て、太公望ははっとした。

「……劉備将軍……」
「は?」
「彼女はいつから、この軍に?」
「さぁ、忘れましたが。田舎の貧しい出の娘で、諸葛亮に士官してきた……らしい。
  もう3、4年はたつ」
「そうか………」

  まさか、な。

  太公望はまた楽器をひきだす彼女を見て、何かを想うのだった。




時が過ぎれば、何か新しい曲はないの?」
「新しい……。そうですね。何か考えておきます」
「の奏でる音は不思議ね」

  孫尚香は感心したように呟いた。

「何ていうか、とっても安らぐの」
「そう、ですか?」
「ええ。戦で帰って来ても、また安心できる」
「…………私は……よくわからないで弾いていますから」
「?」
「思うまま。手が動くままに弾いているだけなんです」
「勿体ない!補佐なんかやめて。音楽家になればいいのに」
「そういうわけにもいきません。
  孔明様にもお世話になってますから」

  はまた曲を奏でる。
  孫尚香はそれに聴き入っていたが。

「!」

  手を叩く音がし、ははっと演奏をやめてしまった。

「いい曲だ。そなたが考えたのか?」
「?はい」
「……あ、そっか。はまだ知らないのね。
  私たちに協力してくれるようになった、太公望よ」
「よろしくお願いします」

  は一礼した。
  間近でみて、やはり似ているとかんじる。

「ふ……心が安らぐな。機会があればまた聞きたいものだ」
「はい……。喜んで」

  は笑ってまた演奏を始めるのだった。

  思い出すその人のこと……。


   「太公望、私は遠呂智を止めに行く」


  そういって、帰って来なくなった人。
  誰も行方を知らない。
  彼女は私にとって……。

  は戦場にも出た。
  さすが、諸葛亮の補佐というだけある。
  手際よく戦場を描いていく。

「中々、やるな」
「太公望殿」
「お前を見くびっていたようだ」
「いえ、私など、太公望殿や孔明様にならうことが多い」

  は頭をふり、馬を進める。
  謙虚なのか、照れたのか。

「…………」

  戦のやり方も似ているな。
  不思議なものだ、容姿だけかと思ったらそんな所まで同じか。

  戦は勝利に終わった。
  だが、怪我人の手当てなどやることは沢山ある。

  も他の者と走りまわっていた。
  すると。

「大変そうだな」

  また太公望が声をかけてきた。
  はそれを見て。

「太公望殿も手伝ってください!」
「!私は……」
「水を変えてきてください。早く!」

  音楽を奏でていた時とは違う、はきつく言うとまた走り出した。

「……………」

  私が………。

  太公望はため息をつき、水をかえにいく。
  それからもばたばたとこき使われた。
  休んだのは深夜になってからだ。

  寝る場所も構わず、はざこ寝していた。
  太公望はその隣に座る。

「……………」

  やはりにていた。

  太公望はそっと触れる。
  は表情を歪めたが、すぐにもとに戻る。

「……お前は……似ている……」

  あの時、何故、止めなかったのか。

  太公望はしばらくそうしていたが、外へ出ていく。
  川まで行き、釣りを始めた。
  何が釣れるわけではない。
  ただ考え事がしたかっただけ。

「………?何だ?」

  背後に気配をかんじ、声をかけた。

「太公望殿……あの……」
「………お前か……」
「眠れないのですか?」
「別に。私はねずとも構わぬ」

  太公望は視線を向けようとしない。
  はそんな彼の隣に行く。
  そして、笛をふく。

「……………」

  太公望はそれに聴き入った。
  懐かしい。

「……お前は私の知った人に似ている」
「……………」

  太公望がしゃべるがはやめない。
  止めれば、太公望は語らなくなるだろう。
  そう思い、奏で続けた。

「……しかし、その人はいなくなった。いきなりだ。
  帰って来ると信じていたが……」

  こんなに似ている彼女。
  まさか、転生した姿なのかと思った。
  そんな勘違いをするほど、私は思い続けていたのか。

  を被せて、また見つめている。

「お前の奏でるその歌も」
「?」
「よく似ている」
「……………」

  を見た。
  は複雑そうに演奏を止め、太公望を見た。

「貴方はその方を止められなかったことを後悔しているんですね………」
「……………」
「……貴方も人間らしいんですね……」
「………馬鹿な。私は仙人だ……」

  太公望は失笑した。
  そんな所は彼女とは違っていた。
  いつの間にか、彼女の存在に癒されていた。

  だが、遠呂智を倒すことをかかげている以上、またそれはやってくる。

「私は遠呂智へ攻撃を仕掛けます!」
「!」
「策があります。私に任せてください」

  は馬にとびのり、剣を抜いた。

「私が止めてきます!」
「!!」

  また記憶の中の彼女と被る。

「……!」
「!」

  太公望は馬の手綱を引いた。

「あ………」
「……」
「太公望殿………」
「……行くことは許さない」
「何を!!今、攻めなければ!!」
「だからこせ許さぬ。お前を……」

  手が震えた。
  自分らしくない。
  言ってはいけないことをいおうとしている。

「……失いたくない」
「……………」
「……」
「私も……貴方を失いたくない。だから、戦う。
私はまた貴方とまた、過ごすために」
「!!!」

  は太公望を振り切り、馬を走らせた。
  駆けていく姿。

  彼女を失いたくない想いは、初めてあつく太公望を戦場で戦わせたのだった。





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