痛い恋



「いいんです!私は何もいりません!
  官兵衛様のおそばにいられれば」

  そんなことを言っていた娘だった。
  名は。
  拾われた存在。

  秀吉の妻であるねねは面倒見がいい。
  戦で暴行された娘を連れて来たのだ。
  被害は不運としか言いようがないものだった。

  はじめは半兵衛に懐いていた。
  色々教わっていた。
  だがが近づいたのは官兵衛だった。

  ねねに戦い方を教わり、戦場に立った。
  そして、彼女は官兵衛を守るようになっていた。

「は官兵衛が好きなんだねぇ!」
「え……え!?わ、私は!!そんな!!」
「ふふ……いいんだよ……。官兵衛は言葉は少ない子だけど、しっかりしてるよ!」
「……わ、私など……身分などない……者は……」

  官兵衛様に近づくことなんて……。
  そばにいられるのは戦だからだ。
  見返りなんて望んでは罰があたってしまう。

「そんな顔しないの!」
「………ねね様は……秀吉様といて……幸せですか?」
「あたし?まぁ、あの人は女癖は悪いけど……いい人だからね。
  とっても幸せだよ」
「……………」

  幸せ………。
  私は……ねね様と同じ形の幸せは望めない。
  でも……私の幸せは……。

  官兵衛は周りの者にいい顔はされない。
  発言で対立することが多かった。
  それがいつかおおきな争いにならないか、は心配でたまらない。

「…………」

  近づくなんて許されない。
  だって私は……傷物なんだ。

「!!」

  恐怖がよみがえる。
  掴まれる髪。
  たたきつけられる地面。
  痛み、悲鳴。刀。

  刀を掴み、切っていた。
  訳がわからなくなり、感情が爆発して。

「う……ぅ………」

  忘れようと押さえ込む。
  早く忘れなければ。

「……あ……」

  官兵衛様………。

  話し合いが終わったのか、官兵衛がでてくる。

「……………」

  彼が何をしてくれた訳ではない。
  ただ、わからない感情がいつも自分を戦わせた。
  彼を守るため戦場にでていた。

「…………」
「は、はい!」
「次の戦、お前には前線にでてもらう」
「……………」
「死ぬかもしれぬが覚悟しておけ」
「……はい!」

  私の名前を呼んでくれた。

  彼にとって、自分は駒だ。
  だがそれでもいい。
  官兵衛のためという言葉があれば、自分は戦える。

  それが死ぬかもしれないという言葉でも。

「やぁ!」

  武器をふり、敵を散らす。
  いつもの戦だ。
  切り伏せ、切り進み、ただ突っ切っていく。

  官兵衛が戦わなくていいように。

「はぁ………はぁ……」

  戦が終わり、座り込んだ。
  体についた傷。
  今日はうけた傷が多い。

「…………まだ……まだだな……」

  こんなに傷ついていてはいけない。
  もっと強くならなくてはいけない。

  陣に戻り、傷を手当する。
  衣服を調え、官兵衛の元へ。
  報告をし、外に出た。

「……………」

  私は……。

「あれー!!!!久しぶりぃー!」
「甲斐殿」
「まーた、傷かかえちゃって!何?あいつのせい?」
「こ、声が大きいです甲斐殿」

  慌てて甲斐姫をおさえたが………。

「少し静かにしてもらおう」

 官兵衛が迷惑そうに部屋からでてきた。

「!も、申し訳ありません」
「何よ!立ち聞き?そんな小さな事をぉぉ!」

  は慌てて甲斐姫を連れていく。
 甲斐姫は官兵衛が嫌いなのだ。

「もう!何?あいつ!」
「か、甲斐殿……」
「何であんな奴好きなわけ?」
「………わかりません。ただ何となくです」
「見返りなんてないのにさ!」
「……私は見返りなんていりませんよ。
  ただ名前を呼んで頂ければ幸せです」

  それは私を覚えてくれているということ。

「かわった子ねー」
「はい。変わり者なんです」

  その日、傷が痛み、眠れないでいると……。

「………」
「……!?は、はい!!」

  官兵衛が来ていた。

「な、何でしょう」
「…………傷は……」
「たいした……ことは……」

  痛みなんて……。

「何か御命令でしょうか」
「…………」
「官兵衛様……?」

  官兵衛は黙っていた。

「どうなさいました?お加減が……あ……」

  官兵衛は手をのばすと、の肩を掴んだ。

「官、兵衛……さ、ま……」

  緊張する。
  鼓動が激しくなった。
  心臓が高鳴り、壊れてしまいそう。

「!」

  いきなり着物を下ろされる。
  傷ついた体。

「あ……っ……」
「この体で戦にでるつもりだったのか」
「……………」

  私は……。

「平気です!私は……戦えます……。戦える」
「………………」
「ですから、私に……御命令を……」

  私に命令をください。私に言葉を……。

「その傷で武器が振るえるのか」
「…………たとえ……振るえなくても……官兵衛様の……盾にはなれます……」

  官兵衛が生きていればいい。

「見返りなどなく、何故私につく……」

  え………。

「それ、は………」

  初めて理由を問われ、狼狽した。

「私………は……ただ……貴方を……守りたい……」

  見返りなど……。

「私は……」

  駄目だ。想いを口にするなんて。
  官兵衛様の迷惑になってしまう。

  心が壊れそうだ。
  痛い。つらい。

「薬だ……。秀吉様がすすめてきたものだ。おそらくいいものだろう」
「あ………」

  わざわざ?

「傷は膿めば酷くなる」
「…………」

  薬を………。

「ありがとうございます」
「……………」

  官兵衛は薬をとり、にぬりだした。

「!!か、官兵衛様!?いけません……私に……触れるなど。
  私は高貴な身分では」

  体をひこうとしたが、官兵衛は腕を掴む。

「あ………」
「……………」

  また薬をぬりだした。

「う………」

  駄目だ。

  包帯が取れる。
  傷に手がふれた。ぴりりと痛む。
  表情が歪む。

「……………」

  官兵衛様の手が……。   私はもう……死んでもいい。

「酷い傷だ」
「酷くなど………私には……官兵衛様を……守れたしるしです」

  手が冷たい。
  でも体がものすごくあつなっていた。

「……官兵衛……様……あ………」

  また包帯を巻き直した。
  やっと解放される。
  脱力してしまった。

「……次の……戦……勝つことができれば、何かかわるだろう」
「え………」
「今の境遇も………」
「官兵衛さ、ま………?」

  変われる?私は変わることができる、の?
  でもやはり見返りはいらない。
  最後まで生き抜いた先に官兵衛がいれば……。
  それだけで……。






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