見つめてきた人



「陸遜様、おはようございます。大喬様より書簡を預かりました」
「あ……はい。ありがとうございます」

  やってきた女性を部屋に招きいれた。そして書簡を受け取る。

  少し大人びた彼女。
  陸遜よりも何歳か年上なのだ。
  大喬の部下である彼女。副将であり、護衛をしている。
  年のせいか落ち着いている。

「…………あと、これをどうぞ」
「え?」
「働きすぎだと、皆が心配していますよ。甘いものを食べて、ゆっくりしてください」

  机の上に菓子を起き、彼女は微笑んだ。

「は、はい。ありがとうございます、」
「……何かありましたら、私も手伝います」
「いえ、貴方は大喬殿の……」
「そんな事は関係ありません。陸遜様が倒れては大変ですから。
ちゃんと大喬様からも許しは得ています」

  笑うを見て、陸遜は満たされていく。
  彼女が自分の元に来るだけで、仕事がはかどっていた。

  大喬も陸遜の気持ちに感づいているからこそ、彼女をここにやってくれていたのだろう。

「あっ……あの……」
「はい」
「大喬殿にこれを」
「………はい……」

  陸遜は返しの書簡を渡した。
  はそれを受け取り、部屋を出た。
  そして書簡を見る。

「………………」

  大喬様はわざわざ私を陸遜様の元へやるわ。
  そして私以外いかせない。その度にこれを頂く。
  二人は想いあっているのだろうか。

  そして自分だけをつかい、他にばれないようにしている。と?

「………あ……」
「っと、悪い」
「凌統様」

  凌統にぶつかりそうになる。
  だが凌統はそっと肩を掴み、とめてくれた。

「考え事かい?ぼーっとしてると、今度は壁にあたっちまうよ」
「ふふ……すみません。ちょっと深い考え事」

  凌統もつられて笑った。
  年上だが凌統とは話しがしやすい。

「まぁ、階段踏み外さないように気をつけな」
「はい」

  と、凌統と会話をする姿を見つめるのは……。

  ああ、また陸遜様、駄目だったんですね。
  これで何度目かしら。

  大喬だった……。
  陸遜の密な想いに気付き、彼女はを彼の元へいかせていたのだ。
  陸遜もその企みには気付いたらしく、素直に受け入れていた。

「……………」

  もう少し!あと一押し!さんも陸遜様を向くようにしないと!

  大喬はやる気満々だ。
  それは戦場でも同じで……。
  陣に戻り、休息していると。

「さん」
「はい」
「陸遜様のお世話をしてあげてください。周りに女性がいないようですから」
「……え……ですが……私では……」

  大喬様が行ったほうが喜ばれるのでは……。

  は戸惑い、大喬を見た。

「?さん?」
「私が行くより、大喬様が行かれたほうが喜ばれませんか?
  私では……かわりにはなれませんし……」

  申し訳なさそうに瞳を閉じる。
  大喬ははっと気付く。
  彼女の勘違いに気付いた。

「わ、私は陸遜様のことは何とも思っていませんよ」
「えっ!?あ……ですが……私は……」
「何かありましたか?」
「い、いえ。私、勘違いしてました」

  苦笑し、は陸遜の元へ。
  だが見張りの兵がいない。

「?陸遜様……」

  は不思議に思い、てんとを覗いた。

「っ……く……」
「……………」
「あっ………」

  は目を見開く。

「陸遜様!」
「!」

  陸遜ははっと彼女を見た。
  そして手にした布を落とした。
  血で赤くなった布。

「あ………」
「怪我をしていたんですか」
「…………」
「ちゃんと医師に見て……」
「!止めてください!」
「!!」

  陸遜はの腕を掴んだ。

「……すみません……。ですが、怪我のことは秘密に……。私が怪我をしているのが知れては、士気に関わります」

  陸遜の怪我。それは確かに士気に関わるものかもしれない。

「……私に手当てさせてください。これではちゃんと回復しません」
「は、はい」

  陸遜を座らせ、隣に座る。そして、包帯や薬を用意した。

「色々、勉強したんです」
「……は、はぁ……」

  陸遜は赤くなる。
  手に触れている。彼女がこんなに近くにいる。

「陸遜様?」

  陸遜の様子がおかしいのに気付き、はっと顔をあげた。

「……」
「!」

  陸遜はにそのまま口づけた。

「ん……ん……」
「……………」
「あっ……う……ん!?」

  そのまま押し倒し、また口づける。
  何度も何度も繰り返されるが、ははっと我にかえる。

「り、陸遜様!!」
「あっ……」

  は陸遜の怪我を忘れ、突き飛ばした。
  そのまま、飛び出していった。

  まさか、まさか……そればかり頭の中を駆け巡る。
  彼が何をしたのかわからない。
  口づけ、押し倒された衝撃、もう頭の中から消えていきそうだ。

  色々、頭の中で繋がった。
  大喬が自分を陸遜の元へ行かせていた理由。
  彼が自分を受け入れていた理由。

「うわっ!」
「!!す、すみません!!」
「ま、またあんたか」
「あ……凌統様……」

  また凌統にぶつかってしまった。
  は赤くなり、俯く。
 陸遜ではないが、何だか目が合わせにくい。

「何だよ?そんな顔して」
「い、いえ。何でも……」
「待てって!」
「あ………」

  凌統はの腕を掴む。

「話してみろよ。誰にも言わないからさ」
「……………」

  は辺りを見回し、そして一息ついた。
  今までのことを全て話し出す。

「……それはあんたが……鈍いな」
「え?わ、私が?」
「気付かなかったのか?あそこまでされといてさ」

  凌統から言わせれば、周りは皆気付いていた。
  大喬はやたら、陸遜にを任せるし、陸遜も拒まなかった。
  陸遜は陸遜でにしかみせない顔があったわけだ。

「あ……わ、私……」
「しかも勘違いか。可哀相だな」
「う……」

  は息がつまった。何も言えなくなった。

「……いきなり言って、好きになれとは言わないけどさ、少しは眼中にいれてやんな。
  真面目ばっかりが取りえの軍師様をさ」
「……………」

  わ、私だけが知らなかったなんて……!

  次の日、戦に向かう陸遜の元へ。

「、昨日は……すみませんでした。わ、私は……その……」
「……陸遜様……」
「はい」
「大喬様に許しはえました、だから……今日は……そばにいさせてください」
「……………」

  陸遜は目を見開く。
  昨日の今日なのにもう話してくれる。

「……だから……」
「…………そばにいてくれますか……」
「はい」

  彼女がいるから、彼女がいるから……私は……私は……。

「……、愛してます……。貴方がいるから、私は何にでもたえることができるんです。だから、一緒にいてください」

  まだ気持ちは聞けないが、また満たされていく陸遜だった。






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