恋をした人



「はぁ」

 ダメだ。寝ても醒めてものことばかりだ。
  私はこんな未熟者だったのか!!

 陸遜はため息をつき、老酒を飲み干す。

「…………………」

 どれだけ頭が働こうとこれでは何の役にも立たない!
  くっ!!!肝心なときに私は駄目な男だ。

「……………な、何とかものにできないか」

 などとつぶやきだした。危うい兆候だ。
 そしてそんな陸遜の思いついた



「!」
「陸遜さん」
「疲れていませんか?」
「え?いえ、そんなに……は。大丈夫ですよ」
「そうですか。でも明日からはわかりません」
「え?」

 陸遜は何か取り出した。

「?これは」
「疲れをとるための薬です。特別に調合してもらいました」
「え………」
「貴方のために……その……」
「あ、ありがとうございます。今度飲んでみますね」
「あ、できれば今夜」
「今夜?」

 は首をかしげる。何故今夜でなければいけないのか。
 疲れていないからよさそうだが。

「貴方の体調を見ていると、今夜辺りに飲むのが一番いいらしいので」
「え………あ、そうなんですか」
「はい」

 陸遜はにっこり笑う。だがその笑顔の裏には黒い影が。
 特に体調など調べたわけではない。
  ぜひ、今日飲んで欲しいのだ。それは……。

「では飲んでくださいね」
「はい」

 ふふふ……何も知らない。すみません。
  こんな卑怯な私を許してください。
  それは媚薬なんです。特性の一晩は長持ちするというもの。
  その名も「一夜情」。いえ、名前なんかどうでもいいんです。
 後は、私のが飲んでくれるだけで。

 陸遜はそんなことを考えながら有頂天になる。
  夜が待ち遠しくて仕方ない。

 そして、その夜。

「はぁ………」

 もう飲んだだろうか。

 気になって仕方がない。そわそわ歩き回っている。

「よし」

 い、一度行ってみるか。よし。
 行くしかない!もし飲んでいて、他がいっては大変だ。
  私が責任をもって介抱しなければ。

「あ……陸遜さん、私変なんです」
「え?」
「陸遜さんを見ていたら、どきどきして。とまらない」
「?」
「お願いです。わ、私!」
「!」

 いきなり抱きつく。
  戸惑い、潤んだ視線を向けてくる。

「陸遜さんに触って欲しいんです。変です、よね。でも」
「………。変じゃありませんよ。大丈夫です。私に任せてください」
「え……でも」
「貴方が好きなようにしますよ」

「は……はは。よし!!これです!!!」

 陸遜は妄想の中で楽しむ。
 もうの部屋は目の前だ。
  飲んでいるかどうか、もう楽しみで仕方ない。
  飲んでいなければ、口移しでもして飲ませてみせる。

「」

 とんとん。と戸を叩き、部屋の中へ。

「あ、陸遜さん」
「?」

 あれ?おかしい、異変がない。

「どうしました?」
「あ、ああ、昼間の薬どうしたかと思って」
「え………あ、あれですか?」

 は戸惑い、陸遜を見た。何かいいにくそうだ。

「?」
「あの……甘寧さんが……疲れたと言っていたので上げてしまったんです。
すみません。折角………」
「か、甘寧殿?」
「はい」

 そ、それは………やばい。

「!!」

 そのとき。

 何かの怒号と壊れる音が。
 陸遜は急いで外へ飛び出した。
  そこには無双乱舞する甘寧が………。

「あ、あああああああ………」
「か、甘寧さん!?どうしちゃったんですか!?」
「おらおらぁ!!今日はたぎるぜぇぇぇぇ!!!」
「!ま、まさかあの薬が効きすぎてるんじゃ」
「う…………」

 それはある意味正解で……。

「とにかくとめないと!!」

 そして、甘寧を取り押さえたときには朝になりかけていたのだった。
 流石、一晩持つだけあって、彼の体力は中々尽きなかった。



「はぁ…………」

 今回は酷い目にあいました。
 心優しいです。仕方がありません。甘寧殿も人から者を貰うなんて!!!

「ふ………」

 ですが、今回は大丈夫。

 陸遜はまた悪巧み。それは……。

 陸遜が机に置くもの。それは香だ。それはまたもや媚薬の作用のあるもの。
  策が成功するまでやる気満々だ。

「後はが来るだけだ」

 陸遜はまたもや楽しみで仕方がない。
  誰にも邪魔されないように、夜に約束し別な部屋までとったのだ。
  これで………。

 陸遜はこぶしを握る。
 かれこれに恋焦がれて数年。恋心を打ち明けることもできずにいた。
 それというのも、彼女が孫尚香の補佐役だったからだ。
  手を出すわけにはいかない。
  だが今はその孫尚香も嫁いでしまった。
 そしては孫権の補佐として、残ることを言い渡された。

「………陸遜さん」
「あ、はい」
「です」
「どうぞ、お入りください」

 を部屋の中へ招く。
  椅子を薦め、二人で少し話していた。そこに。

「あのこの香をたきませんか?」
「え?」

 が香を取り出した。
  それは陸遜が持っていたのと同じもの。

「そ、それは!」
「え……あの尚香様に頂いたんです。何か大事なときに炊きなさいって」
「だ、大事なとき?」

 まさかが持っているなんて!何てことだ。彼女はこの香を知らないようだ。

「あの……それは」
「わ、私、今炊きたいです。今、大事な時だって……思うから」
「なんて言われて渡されたんですか?」
「え………」

 ははっとしたように陸遜を見る。
  戸惑ったように彼から視線を離して、香を見た。

「……好きな人……と……一緒にいるときに……。どうしても一緒にいたかったら」
「…………………」

 陸遜は気が遠くなったような気がした。
  が今、何と言ったのか。目の前がぐるぐるする。

「すき、好きな」
「すみません!!私……あの……」

 真っ赤になる。
 陸遜は香をとると、それにさっさと火をつけてしまう。

「陸遜さん」
「あの……言いにくいんですが……」
「はい」
「私も持ってるんです。これ……あの」

 陸遜は香を取り出した。

「あ………」
「害はありません!!いえ、あ、少しありますが、両方炊いてしまいしょう!!
ね!?今日は帰しませんよ!!」
「え!?え!?陸遜さん!?」
「私だって貴方が好きなんですから!」

 陸遜はそう言って、を抱き寄せ口付けた。
 その夜、本当に人が来ない部屋でよかったと陸遜は思うのだった。
 またもや眠れない夜だったのだったが、彼にはそんなことはどうでもよかったのだった。





inserted by FC2 system