煌びやかな貴方





「可愛いですね。はい。とっても素敵です。
もう輝かんばかりの魅力です。ああ、私、気を失いそう」

 は棒読みでそういった。
  目の前には女装した陸遜が。
  彼は絶望した顔で、固まってしまっている。

「あの…………」
「何でしょう」
「これには事情が」
「はい。存じ上げています。策ですよね?ふふふ、素敵な策ですこと。
副将で女の私がいるのに、わざわざ陸遜様を女装させるなんて」
「それは。あなたを一人連れて行くなど危険ですから」

 と、言い訳をしてみる。

「でもずいぶんと楽しそうでしたわね」
「う………」

 数分前。

「陸遜!今回は賊の討伐だ。賊とはいえ、あなどれん。
民に被害が出れば、また大変なことになるんからな」

 民に被害が出る。
  それは町や他の者にも被害が出る。
  そして、それはいつか殿の元にも………。

 陸遜はそう考える。
 混乱はさけなければいけない。
  略奪が当たり前に行われてはいけないのだ。

「と、いうことで今回はお前に活躍してもらう!!」
「え?」
「お前が女装し、馬車に乗る」
「……………」
「豪奢なものでひき、一網打尽にするのだ」
「で、ですが馬車に乗るのなら私は女装せずとも」
「油断させなければならんだろう?」

 そう言う呂蒙。
  呂蒙に言われては何もいえない。
  確かにそうかもしれない。見たときに男だとばれては警戒するだろう。
  服だけでも女のものが見えれば………。

「ですがそんな単純にいくでしょうか?」
「ああ、そこで賊の多発する場所を選んだ。毎日、食料を運ぶ牛車が狙われている」

 もうそこまでわかっていた。
  いつの間にそこまで話が進んでいたのか。

「わ、私には女性の副将がいますが。彼女では……。私が車の護衛につき」

 一応、案を出してみる。
  それに呂蒙は渋い顔をした。

「もし……失敗し、が連れ去られたときどうする」
「え………」
「身代金目的で彼女だけを連れ去るやもしれんのだぞ」
「!」

 そ、それはダメだ。
  確かに、を危険に合わせないためには自分がやらなければ。

「わかりました。やりましょう!」
「そうか。お前ならばやってくれるともったぞ!」
「……………」

 を犠牲にするくらいならば!

「やりましょう!!この策、必ずや私が成功させてみせます!!」
「そうか。よく言ってくれた。ならばお前に服を」
「え……い、今からですか?」
「当たり前だ。慣れていかなければな」
「……………」

 け、結構完璧主義だな、呂蒙殿は。

「では、お前たち頼むぞ!」
「え?」

 女官たちが色々持ってきた。
  それは衣装や化粧の類だ。飾りまである。

「う……ほ、本格的ですね」
「ああ。よし!着替えさせてくれ」
「!?ちょ、ちょっと待ってください!!き、着替えは……着替えは自分でぇ!?」

 抵抗するが手際のいい女官たち、あれよあれよと脱がされてしまった。
  そしててきぱきと服を着せられていく。

「う………」
「はい。では化粧をさせていただきます」
「………………」

 まさかこんなことまでされるとは。
  こんなことで動揺はできないが、ああ……ダメだ。

 やはり羞恥心がある。割り切れない部分がある。

「おーい、おっさん。何だよ?」
「ちっ、上官に向かっておっさんはないだろう」

 不機嫌そうな声。凌統と甘寧だ。

「おお、来たか」
「ああ?」
「どうだ?この出来栄えは!」
「?」

 呂蒙は陸遜に視線をやる。
  二人も陸遜に目をやった。

「?誰だ?」
「…………って、陸遜か?」

 流石に凌統は気づいた。
 言われ、甘寧も気づいたようだ。

「うお!?陸遜!!!」
「うううううう」
「どうだ?使えるだろう?」
「ま、まぁ確かにできそうですけど。副将に女いるでしょう?」

 凌統は呆れ顔だ。
  まさかここまでやっているとは思わなかった。

「馬鹿か!お前、女を罠に置くなんてなぁ!」
「そ、そうです!は……そんな危険に合わせるわけにはいきません!」
「へぇ?そのために必死でこれか?」

 女装までやるとは。

「だが似合ってるぜ?はは。まさかここまではまってるとはな」
「そ、そうですか?」
「ああ、まぁ喋ればばれるが、遠目だと女っぽく見えるぜ」
「ああ」

 と二人も言ってくれる。
  陸遜も何だか自信が出てきた。

「もっと飾りつければいいんじゃないか?ほら、こんなのとかさ」

「呂蒙様」
「!」

 陸遜ははっとする。
  聞き覚えのあるその声。間違いなく自分の副将であるの声だ。
  足音が近づいてきた。
  その音が陸遜には恐怖だ。

「あ……あ!」
「ああ、、来たか!」
「え?」

 呂蒙どのーーーーーーーーー!!!!

 陸遜は叫びたくなる。そのままさりげなく背中を向ける。

「次の策だがな。陸遜をつかおうと思う」
「陸遜様ですか?そういえば、先ほどから陸遜様のはしゃぐような声が。
ふふ、珍しいから何かと思いましたわ」

 はやんわりと笑う。やはり本物の女性は何処か違う。

「ほら!これ見てみろよ!」
「!甘寧!ば、ばか!」

 甘寧は陸遜の肩を掴み、のほうを向かせた。
  その瞬間、の顔から笑顔が消えた。

 毎日陸遜を見ているにはすぐにわかってりまった。

「陸遜さ、ま?」
「うああの………」
「………し、失礼します。一度、落ち着いて出直しますわ」
「!!」

 は出て行ってしまう。

「!!!ああああああああ!!待ってください!!」

 陸遜は慌ててそれを追いかけた。
 何か弁解しなければ。とりあえず、彼女を捕まえなければ。

 と、言うことだったのだ………。

「あのですから」
「陸遜様は私が頼りないんですね」
「いえ、そういうわけではないんです。貴方が危険な目にあうのなら……。
私が……かわります。貴方にばかり……」
「…………でもその格好はないです」
「う」

 おっしゃる通り。

「しっかりと胸までいれて」
「!」

 は陸遜の胸を触る。
 それだけで何だかどきどきしてしまうわけで。

「あ、あの…………」
「はい」
「……ほ、本物の感触がどんなものか触らせてください」
「え?」
「そ、それで研究してしっかりつめていきますから!!」
「!!も、もう!!馬鹿ですか!貴方は!!!そんなところはいつも変なんですから!」

 は意味がわかり、真っ赤になってまた歩き出す。

「!!!これも策を成功させるためなんです!!ー!!!」

 陸遜はそんなことを言いながら彼女を追いかけていくのだった。
  陸遜の思いやりは嬉しいが、複雑な所。
  策が成功したのかどうかは………。




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