声と夢と貴方が


「!!目をさましてください!!」
「…………」

  目の前にいるのは光を失い、意思のない表情で向かってくる少女。
  共に戦っていただった。

  だが遠呂智軍に襲われた際、彼女は皆を逃がすため戦った。
  しんがりをつとめていたのだ。
 そして離れ離れになった。

 皆の消息もわからないままだった。
  心配していた彼女の存在も。

「くっ!!」

 味方にいれば頼りになり、無双の力を誇る彼女。
  戦い方もうまく、隙がない。
  その彼女が今自分に向かってきている。

 遠呂智の軍に操られ、自分に刃を向けている。

「!!」
「遠呂智様をまも、るため」
「目を覚ましてください!!貴方は孫呉のかけがえのない方です。
貴方がいなければ殿が!!」

 陸遜は攻撃をかわし、に呼びかける。
  だがの顔は変わらない。
  このままでは体力が尽きてしまう。
  何とかしなければ。だが彼女に手は出せない。

「ー。早くやっちゃってよー。もう!」

 妲己が後ろで呼びかける。
  はその声にこたえるように、さらに激しく攻撃を繰り返す。

「は……は!」
「!!!」

 陸遜は武器を捨て、の腕を掴む。

「はな、せ!」
「くっ!」

 振り払われそうになった手を、何とかこらえる。
 武器を奪わなければ。

「う………」
「どけ!!!」
「!」

 腹をけられ、陸遜は吹き飛ぶ。
  地面に転がる。
  はすかさず、武器をふるう。
  それをすれすれで避け、の胴にしがみついた。

「……。やめてください。!!!殿が……悲しんでますよ」
「っ………!」

 振り下ろされそうになった武器を掴む。
  いつまで耐えられるかわからない。

「……目を覚ましてください。
私は貴方を傷つけたくない。私にとっても……貴方は……」
「!!!耳をかさないで!!早く!!!」
「くっ!!」
「貴方は大切な人です。……」

 しがみつく腕に力をこめていく。

「………」
「うる、さ、い!!だ、まれ!!」
「!!!」

 陸遜はをそのまま勢いで地面に押し倒した。
  手から離れた武器を蹴り飛ばす。

「!!」
「私の気持ちは……はなれる前に言いましたよ。
貴方の気持ちを教えてください。ずっと………」
「っ!せっかく手に入れた駒を渡すわけにはいかないのよ!」
「!」

 妲己は陸遜に攻撃を仕掛けてきた。
  武器はない。
  避ければにあたる。

「あんたもこっちに来ればいいのよ!!楽になるんだから!」

 攻撃が当たりそうになった瞬間。

「!!」

 陸遜は突き飛ばされる。
  時がゆっくりと流れた。

「!」

 は妲己の攻撃を避け、逆に背中に一撃いれる。

「!?」

 まさか、術が!?

 妲己ははっとする。
  だがの表情は変わらないままだ。

「解けたわけじゃないみたいね」
「あ……う……あ、わ、たしは」

 術が解けかけている。
  陸遜の言葉がを惑わせていた。

「あ……あ!嫌だ」
「!楽になりたいなら彼を切ればいいのよ!
あんたを苦しめてるのはあいつなんだから!」
「黙れ!!!!私の元へ来てください!!」
「わ、たしは」
「!!!」
「!」

 妲己の叫びには目を見開く。
  そして陸遜を見た。

「………」

 ここまで言っても駄目なのか。
  彼女に言葉は届かないのか……。

 陸遜は絶望していく。

「………」
「わた、し……は……お前を切る。切る」

 懐刀をとり、また陸遜へ向かってくる。

「………愛してましたよ」

 彼女には勝てない。
  けれど、彼女に切られるのなら本望だ。



「あああああああああああ!!!」
「!!」

 は膝をつき、苦しみだす。
  頭をかかえ、そのまま地面に倒れた。

「な、に!?!?どうしたの!?」
「!!」

 何が起きたのかわからない。
 は悲鳴をあげ、苦しんでいる。

「り、くそん………」
「」
「助けて。助けてぇ!!」

 初めてきく彼女の悲鳴。
  陸遜はにかけより、彼女を抱きかかえた。

「そんな……術が……」

 妲己は動揺していた。
  まさか術がとけようとしているなんて。

「陸遜……。陸遜」
「、私はここにいます。触れてください」

 陸遜はの手をしっかり握る。

「くっ!もういらないわ!そんな駒!」

 妲己はそうはきすて逃げていく。
 所詮は使い捨てだったのだ。

「りく、そ………」
「………」
「私……は……うぁ……」

 まだ術が抜け切れていないのか、はふるえる。

「大丈夫ですよ。もう一人じゃありません」
「陸、遜……」
「……………。もう大丈夫ですから」
「わた、し………ん……」

 陸遜はに口付ける。
 つよく抱きしめ、彼女を確認する。

「……」
「陸遜……陸遜……。会いたかった……」

 涙を流し、彼を確認する。
 会いたかった人が目の前にいる。

 陸遜はを抱きかかえ、安全な場所へ連れて行く。
  そして彼女が落ち着くまでそばにいた。
  術が解け、また元の彼女に戻るまで時間はかからなかった。





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