永久に共に




「す、好きだ!!」
「え?」
「わ、私は……おまえが好きだ……」

  姜維は真っ赤になりながら、じっとを見た。
  はきょとんと姜維を見るだけ。
  大人びた表情の中にあるこどもっぽさ。

「あ、あの」
「私のどこが好きなんです?」
「あ……ああ……えっ……と……す、好きな……所とは……」
「好きになったきっかけとか……」

  姜維はかたまった。
  それをこの場でいえというのか。
  だが彼女からすれば大事なことかもしれない。

「………!あ、ああ!!私はお前のがんばる所が好きだ。その知識も武勇も……それでいて舞がうまい所も」
「……………」
「お前が……?」

  は考えこむような仕草をする。
  姜維は首を傾げた。何かあるのか。

「………私を捕まえて下さいな」
「え?」
「貴方も武勇があり、知略もあります」
「?」
「それをつかい、私を捕まえてください。捕まえることができれば、私は貴方のものになります」
「……………」

  私のものに……。

  姜維は変な汗をかいた。
  を抱く、自分の姿が浮かぶ。

「…………い、いいだろう!お前を捕まえればいいのだな!」
「ええ」

  微笑み、は姜維から離れていく。
  背中を向け、歩き出した。
  まるで挑発しているようだ。

「……………」

  捕まえれ、ば……。

  姜維は体が暑くなる。
  走りだし、手をのばす。
  髪に触れそうになったが、はさらりとそれを避けた。

「あ………っ……」
「どうしました?」
「……………」
「姜維?」

  だ、駄目だ。やはり、何か考えなくては……。

  一筋縄ではいかない。

「では、失礼します」
「……………」

  よ、よし!!

  姜維はその日から色々と策を考えだした。
  を手にするため、必死だ。

「何やら姜維が騒がしいですね」
「そうですわね」
「……………」

  諸葛亮はを見た。
  知らぬふりをしているが、原因は彼女だろう。

「何か言いましたか?」
「ふふ……嫌ですわ。私は助言に従ったままです」
「助言?」
「共に過ごす男の見極めかたですわ」

  はにっこり笑う。
  諸葛亮はその出所がわかったのか、苦笑いした。

「月英ですか」
「ふふ……さぁ……色々です。いいところも悪いところも見ないと」
「……確かに……頼りなくては大変ですね」

  は食事をおき、諸葛亮の部屋から出た。
  その瞬間。

「!」

  姜維が物影から飛び出し、を捕まえようとした。
  はそれをよけ、姜維の背中を押した。
  壁が目の前に迫る。
  姜維は壁に激突した。

「っ……う………うぅ……」
「嫌ですわ。いきなり来るなんて」
「あっ……!」
「すきをついたつもりですか?まだまだです」

 情けないことに叱られる始末。
  姜維は何だか寂しくなる。
  捕まえたとき、本当に彼女は自分のほうを向いてくれるのだろうか。
  嫌々ではないのか。

 そして次に考え付いたのは………。

「………………」

 流石に気がひける。
  いや、だが相手はなのだ。手加減していてはいけない!
  すきがあればそこを!!

 何と、夜遅くにの元へやってきたのだ。
  一番油断しているのはこの瞬間だと確信していた。
  これがダメなら、もう彼女のすきを見つけるのは難しいだろう。
  だが。

「そこにいるのは誰だ!?」
「え?」

 いきなり声が聞こえた。
  しかもの声ではなく男の声だ。

「曲者か!!」
「ちょ……ちょっと待ってください!!」
「ん?」

 相手も何かに気づいた。
  こちらに近づいてくる。

「まさか、姜維殿か」
「え?え?」

 目が慣れてきた。そこにいたのは馬超だ。

「ば、馬超殿」

 ぽかーん。と姜維は馬超を見る。
  何故、彼がここにいるのか。

「馬超殿何故………」
「に不審者に狙われていると言われて………」
「う………」

 まさか、私のことなのか。いや、私のことだな。
 不審者………。

「と、とにかく何処かへ」
「あの、馬超殿……彼女が言った不審者とはおそらく私のことです」
「??何だと?」
「今……ちょっとかけのようなことをしていて………」

 二人はその場を離れた。
  そして姜維は馬超に事情を話す。

「そういうことか」
「は、はい。申し訳ない。こんなことになっているとは知らずに」
「何故お前が謝る!そこは男児としてしっかり追い詰めなければ!」
「え………」

 てっきり馬超からも叱られると思っていた姜維。意外な反応に驚いた。

「を娶りたいのだろう!」
「え……あの……ですから……」
「はっきりしないのか」
「それは一緒になりたいとは……。ですが、彼女がどうかという話をしていない」

 すきでもない男と一緒にいるなんて、屈辱だろう。苦痛だろう。
  好きだからこそ、それを考えるとつらかった。

「…………そう、か」

 馬超はふぅとため息をついた。

「だが、嫌な男に捕まりたいと思うのか?」
「………え………」

 それは……。

「まぁ、相手はあのだ。しっかり策を練るのだな」
「は、はい」

 そうだ。このままでは一年たとうが二年たとうが無理な気がする。
  ここは……やはりすきをつき続けるしかない!

 その次の日、月英と話し込んでいた。
  後ろから飛びつこうとしたら、避けられ、月英に抱きついてしまったのだ。
  もちろん、諸葛亮からはお説教をくらってしまった。
  次の日も……その次の日も……。

「丞相」
「はい」
「丞相はどのようにして、月英殿を射止めたのですか」
「…………さぁ、それは彼女が認めてくれただけでしょう。私はただ努力をしていただけです」
「…………………」
「こんなことで諦めていては、彼女の心には届きませんよ」

 彼女の………。
 そういえば、この頃話をしていないような気がする。
  いつも背中ばかり追いかけていたな……。

 急に会いたくなって、書物庫へ。
  調度、が出てきた。

「あ……」
「姜維………」
「は、話しをしないか?」

 姜維は戸惑いながら彼女を見た。
  久しぶりに見るような気がする。

「いいですよ」

 余裕からなのか、はそのまま姜維についてくる。
  庭を歩き、誰もいないところへ行っても彼女は何も言わない。
  ある程度歩き、姜維は振り返った。
 をじっと見つめる。

「?」
「」
「はい」
「私とずっと一緒にいて欲しい」
「………………」
「私はお前が何より好きだ。一生一緒にいたい」
「姜維」
「私は諦める気もない。お前が私の隣に来てくれるまで」

 じっと見つめ、そういいきった。
  はぽかんとしていたが、ふっと笑った。

「?」
「姜維は諦めが悪いんだな」
「あ、ああ」

 はくすっと笑うと、姜維に近づいてきた。

「あ………」

 じっと彼を見上げ、微笑む。そして、姜維に抱きついた。

「う!?あ!?!?」
「…………ん」
「え?ぁ………」

 姜維は辺りを見回す。誰もいないのを確認し、を抱きしめかえす。
  そして、そのままの勢いで口付けた。
 口をふさぎ、そのまま固まってしまう。

「ん!ん!!姜維!苦しい!」
「す、すまない。だ、だが初めてで」
「………もう……」
「………………」
「?」
「!」
「あっ!」

 姜維はいきなりを抱え上げる。
  お姫様抱っこをし、じっと見つめた。

「愛してる……」
「………私も……姜維を愛してます」

 また口付けようとしたとき。

「よかったな!!姜維殿!!!」
「!」
「これで少しは静かになりますね」
「全くです」

 草葉の陰から皆が出てくる。
  口付け寸前だった姜維はもうどうしていいのやら。

「皆応援していたんですよ」
「いえ、あの」
「俺は駄目だと思っていたが、最後で大逆転だな!思いは届くものだ」
「あ……あの……そ、その……」

 ああああああああ……またこんなことに……。

「つ、づきは後日話ますー!!!!」

 姜維はを抱えたまま走り出した。
  そしてそのまま何処かへ行ってしまうのだった。

 二人が帰ってきたのは、次の日の朝だった。






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