方が消えたその日から  4


「お久しぶりです」
「はい。一ヶ月ぶりでしょうか」
「何だよ?何か用か?」
「趙雲殿に話が」
「私に?」

  趙雲が首を傾げている横で、甘寧は階段の上のに気付いた。

「…………」

  だが普段と違う彼女を判別できないでいる。

「今日は、趙雲殿に紹介したい方がいるんです」
「紹介……とは」
「我らとの和平の印に。美しい姫君を」
「……申し訳ない……。私には……」

  心に決めた……。

「……心に決めた女性がいます。誰であろうと…………私は……」
「………そうですか。残念です。そんな素晴らしい女性がいるのですね」

  は震えながら階段をおりていく。
  あんなに会いたかった趙雲が目の前にいる。

「その方のお名前は……?」
「………といいます。私の最愛の人です」

  趙雲はそういって、やっと笑顔になる。

「……貴方は本当に彼女を愛してるんですね」
「おい、陸遜」

  甘寧もあの噂は知っていた。
  陸遜がにいれこむのは彼女を……。

「え……?」
「だったら、もう離すべきではありません。あんなに素晴らしい女性なんですから」
「………!」

  趙雲は後ろに聞こえる足音にはっとし、振り返る。
  そこには見たことのない服で着飾ったがいた。

「なの、か?」
「趙雲様………趙雲様!!」

  は涙を流し、趙雲に抱き着いた。

「……ああ、幻では……ないのか。触れられる……」
「はい………」
「なのか?嘘ではないのか」
「私です……」

  趙雲もを強く抱きしめ返した。

「いいのかよ」
「?何がです?」
「あいつ………。勿体ぜ?」
「…………そうですね……」
「あ?」
「ですが……あの人の笑顔が消えるのはもっと……勿体ない……」

  苦笑し、階段をあがろうとすると。

「陸遜殿!」
「あ!?」

  は飛び付くように陸遜を抱きしめた。
  陸遜は珍しく赤くなる。

「殿……」
「ありがとうございます………」
「……これは蜀の方の喜びの表現ですか?」
「はい」
「………うれしいですよ……」

  陸遜はを放す。

「幸せになってください」
「………ええ……。これからも……私は力をかします……」
「殿………」

  また趙雲の元へかえっていく。

「………ありがとう……。和平でしか……ありえない贈り物かもしれない」
「……これからも……我らと手をとっていくために」
「ああ」

  趙雲はの肩をしっかりと抱く。

「………もう……お前を……離さない……」
「あっ……」
「二度と……手放さない……」
「は、い………」

  満たされていく。彼の腕の中。
  会いたかった人がこんなに近くにいるのだ。

  陸遜は幸せに笑うを見て、胸がいたんだ。

「陸遜様、いいの?」
「小喬殿」
「………」

  小喬は二人を見た。
  は幸せそうだが、陸遜は………。

「……ええ……。会いたければいつでも会えます」
「そうだね」
「それに……好きな人には笑っていてほしい」

  陸遜は彼女の笑顔を見て心底思った。
  寂しそうな笑顔ではない。今、本当に嬉しそうだ。

「行こう、」
「あっ……」
「お前の帰りを待つ者は多い。帰れば皆、喜ぶ」
「はい」
「あんたが一番喜んでないとな」
「…………ああ……それは当たり前だ……」
「惚気すぎんなよ」

  甘寧はからかいだす。
  趙雲は馬をよぶと、をのせた。そして、自分も後ろに跨がる。

「……ありがとう……本当に……感謝する」
「またいらしてください」
「!待ってるから!」
「はい」

  微笑む彼女はまた違う。
  趙雲はしっかりとを抱き、馬を走らせた。

「」
「はい…………」
「………私はお前を愛している……」
「え……あっ……」
「お前を失って、後悔した。だから……もう放しはしない……」

  優しく囁かれる言葉。
  久しぶりに感じる彼。
  だがそのすき間も蜀に帰りつく頃にはなくなっているのだった。





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