方が消えたその日から  3



  あれから、何度か蜀に使いを送った。
  陸遜は二度目のつかいにでたときに……。

「ああ、趙雲殿………」
「………あ、ああ……」

  趙雲が調度やって来た。

「またつかいでしょうか」
「はい」
「……………」
「趙雲殿」
「?」

  陸遜は穏やかに笑うと……。

「貴方は義を重んじる人だと伺いました」
「……………」
「貴方は夷陵の地で何故、武器をとったのですか?」
「それ、は………」
「…………止めることも義、だと思うのですが」

  趙雲は何も言えず、辺りの景色に目がいく。

「…………私は……殿のためだけに戦いました。その殿の想いの先にあるものこそ……」
「………それで戦は納得できるものだったのですか?」
「……………」

  その質問に、趙雲ははっと目を見開き、陸遜を見た。
  この人物は何を言っているのか。
  まるで自分が後悔しているのを知っているようだ。
  いや、あんな戦になってしまったのだ。
  そのことを言っているのかもしれない。

「……後悔とは先にわかっていてはその道には進みません。私にも守るものがあり、大切な……人があった……」

  過ぎるのは劉備の姿ではない。
  いつもそばにいた、大切な人だ。
  それ以上は何も言わず、趙雲はその場から離れた。

「あれが殿が言う人か……」

  言葉だけではわからない。

  だが劉備、関羽、張飛を失った蜀。今、義で動かせるのは趙雲だけだろう。
  彼を動かすことが出来れば、きっと……。



「あー!!また無理してる!」
「!」

  その声に驚き、は倒れた。
  その声の主は小喬だった。近づいてくると、を支え、立ち上がる。

「もう、陸遜様が無理しちゃ駄目って……」
「すみません……」

  は歩けるようにと練習をしていたのだ。
  毎日、回復はしている。だが、不安からかその回復は遅い。
  日々つのる彼への想い。

「はいはい!無理するのはまだ後!」

  小喬に寝台へ戻され、は苦笑した。

「陸遜様のお嫁さんになるんでしょう?だったら」
「!?えっ!?な、な!!私は違います!!私は……」

  は赤くなり、小喬を見た。
  小喬はにこにこしているだけだ。
  皆にはそう伝わっているようだった。

「だってわざわざお世話してるんだもん!そうなるでしょ?」
「え……あ……陸遜殿は違いますよ。ただ怪我した私を……親切に……」

  何と説明すればいいのかわからない。
  蜀の人間だとばれてはいけないだろう。

「だから……えっと」
「ただ今戻りました」
「あ、陸遜様!」

  陸遜がやって来た。
  小喬はふふっと笑うと。

「ちゃんと無理しないようにしてね。大事なお嫁さんなんだから」

  そう言って、部屋からでていった。

「あ……」
「お嫁さん?」

  二人の間に妙な空気が流れる。

「……ああ、そうとられているわけですか」

  陸遜ははっと気付いたようだった。苦笑し、に近づく。
  寝台に座り、じっと見つめた。

「あ、あの……」
「趙雲殿に会いました」
「!!」

  あ………。

「……貴方から聞く趙雲殿とは違っていたようです」
「え………」
「生きることが苦しいようでしたよ」

  劉備が討ち取られ、ぼろぼろになってしまった。
  支えたい。

  の目に涙がうかぶ。

「…………」
「すみません。泣かないつもりだったんですが、懐かしくなって」
「……………」
「私に出来ることがあれば、何でも言ってください。
  乏しい知識ですが、和平のために……」

  陸遜は苦笑した。何だか自分に似ているような気がする。

「では色々話をききましょうか……」

  それからは色々と陸遜と話しをした。
  武将のこと、蜀の治安のこと……。

  その中で陸遜はが才のある女性だと感じる。
  話しは陸遜の時間がとることができれば続けられた。
  の体も回復し、動けるようになった。
  陸遜の手伝いをしたり、凌統らと手合わせをした。
  甘寧は彼女を覚えていたが、陸遜に口止めされていたのだ。

「殿」
「はい」

  陸遜は服を持ってやってきた。
  そしてそれをに渡す。
  綺麗な刺繍のはいった服。婚礼用の豪華なものに似ていた。

「これ、は……」
「着てみてください」
「……あ……は、はい……」

  陸遜は一度部屋をでる。
  は緊張しながら服を着た。
  こんな豪華なものは初めてだ。
  いつも粗末な服や鎧ばかりだったわけだ。

「……綺麗……」

  はつけてある飾りを見て、また驚く。
  髪飾りをつけ、陸遜を呼ぶ。

「……あ……」
「初めて、こんなものを着ます……」

  ははにかみ笑った。

「……綺麗ですよ」
「え……わ、私は……」
「貴方は才もあり短い間ですが、皆と打ち解けることもできた」

  陸遜はの手をとる。

「わ、私は……あ、あの……」
「本当は……そばにおいておきたいです」

  陸遜は苦笑し、懐に手をいれる。そして腕輪を取り出した。腕輪をつけ、の手を握ると。

「!」
「でも貴方は趙雲殿の元にいるほうが、もっと輝いているのでしょうね」
「陸遜殿……」
「……迎えが来ています……」
「え………」

  そのまま外へ連れ出していく。

「わぁ!!?」

  調度、小喬がやってきた。
  を見て驚いている。
  だがそのまま急ぎ、門までやってきた。
  そこには。

「趙雲、さ、ま……」

  趙雲が甘寧と話しをしていた。
  和睦は進んでいるようだ。
  陸遜はの手を放し、階段をおりると、二人の元へ。

  は久しぶりに見る趙雲のことで頭がいっぱいになってしまった。









inserted by FC2 system