想いと行為と後悔



  私の想いは届かない。
  その人とは身分が違いすぎる。

  私は………。

「……………」
「ち、趙雲……あっ……」
「すみません………」
「何……っ……。あ……え!?」

  趙雲はを抱き抱えた。
  彼女は劉備の秘密の恋人だった。
  愛人……といえばそうかもしれない。

  外に一人だけ囲った娘だ。
  趙雲はたまにの世話をしていた。
  それは劉備に頼まれたわけではない。
  ただ、趙雲が自分で来ていたのだ。

  山の近くにある質素だが作りのいい館。
  そこに三人の女官と暮らしていた。

「……………」
「趙雲?」
「様………」

  趙雲はを後ろから抱きしめ、放さない。
  は緊張し、趙雲を見上げた。

「……………」

  その不安そうな顔に胸が苦しくなる。
  彼女が愛しい。

  この想いをとげるために、自分は何をすればいいのか。
  どうすればいいのか。

  だがは劉備のもの。

「んっ………」

  趙雲はに口づける。

「ち、趙雲!!」

  は戸惑い、趙雲を突き放そうとした。
 だが趙雲の抱く力はびくともしない。

「んっ……ん……」
「……は………」

  力では勝てるわけがない。
  はされるがままだ。

「趙、雲……」
「……………」
「………私……はもういらないって……ことなのね……」
「……………」

  趙雲はふと視線を逸らす。

「劉備様には……跡継ぎが出来たもの。私はもう必要ないのね……」

  は苦笑した。
  必要ではなくなった。だから、趙雲にまわされたと思ったようだ。
  いや、だが実際そうだった。
  色々な人物に言われ、劉備はを手放さなければいけない状態だったのだ。

「趙雲………」
「………貴方は悪くありません……」
「え……あっ……」
「貴方は悪くなんかないんです」
「趙雲っ……ち、趙雲!」

  このまま後悔するのなら、自由になりたい。
  想いを……この想いを知らせたい。
  劉備でなくても彼女を愛する者はいると。

  こんなことをしなければ、彼女に近づけない。
  彼女を抱き、満足をしたかった。
  全て満たされたかった。

  今日は花が綺麗な場所へ行こうと誘いだした。
  馬にのり、人のいない場所へ行った。

  館には女官がいる。

  彼女は何も警戒などしない。
  そしてその彼女を裏切った。

「あ………」

  は座りこみ、ふるえる。
  濡れて汚れてしまった服。乱れた髪。

「様………」
「!」

  趙雲が抱こうとした手を振り払った。

「……………」
「私……は……本当に捨てられたのね……」
「様、違います。これは殿の言い付けではありません」
「だったら、どうして!?私に……こんな……」
「………私が……勝手に……」
「…………」
「勝手に……やったのです……」

  勝手に………。

「何で………どうして!!」
「…………好きだからです」
「!」
「愛しているからです。これ以上の理由はありません……」

  愛してる。愛してる………。彼女を誰より。

「………私……は劉備様の……」

  正妻ではない。

「……………」
「様………」
「……劉備様は……もう来ないのかしら……。前は……一週間に一度は来ていたのに」
「え?」
「……もうずっと……来ないの……。不安で不安でたまらなかった」

  は泣き出した。
  汚れた袖で涙を拭う。
  我慢し続けたものが今、押し寄せていた。

「うっ……う……」
「私はあいに来ます。貴方にあいに来ます」

  だから泣かないでほしい。自分を見て欲しい。
  劉備ではなく、自分がいる。
  劉備の他に彼女を想っている人間がいることを知ってほしかった。




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